その6 恩師たち1

私は、ヴァイオリンを習い始めてから今までの間にたくさんの先生に出会って来ました。

メインで習った先生方以外にも、講習会などで習った先生など、すべての先生方を挙げたら切りがありません。 楽器を習うという事に限らず、良い先生との出会いや、先生との良い関係の持続は、

専門家としてのみならず人間としての自分の成長には非常に大切なことと思います。 いくら才能があっても、それを開花させてくれる良い先生に出会わなければ埋もれてしまうし、逆に、先生の導き方次第で思いがけない可能性が開けることもあります。 私は、良い先生にばかり出会ってきて、実に幸せだったと思うのです。

特に、長い間習った3人の先生方・・・5歳から16歳までの間習った室谷先生、15歳から留学する19歳まで(そしてその後もなにかと)教えてくださった徳永先生、ロンドンで7年間も習ったタケノ先生・・・は、教え方や性格等も違うし、私に及ぼした影響もそれぞれ全く違いますが、まさに、私にとって最高の先生方でした。 そんな恩師たちのことを、ちょっとお話しようと思います。

初めて室谷先生のお宅に伺ったとき、5歳の私は、先生の目の前で「このおじちゃんが先生なの?」と言ったそうです。なんとも失礼な子供です。

室谷先生は、小さな子供はあまりお教えにならない先生だったところを、無理にお願いして引き受けていただいたのですが、もしかしたら先生は、度々後悔なさったかもしれません。なぜなら、私は本当に扱い難い子供だったと思うからです。 自分が子供を教えるようになって痛感しましたが、子供とコミュニケーションを取るというのは、子供の性格によっては、とても困難な時があります・・・。 私はまず無口で、何を聞いても貝のように口を閉ざしていたでしょうから、言っている事を理解しているのかどうかも、判りにくかったでしょう。その上頑固だったので、先生は時々、ほんとうに困っただろうなぁと思うのです。

先生、ごめんなさい。 そんな子供時代を経て、中学、高校と、ずっとお世話になりました。

今思うと、ある意味とても厳しい先生でした。キツイ言葉を使ったり、強い声で怒るような事は決して無く、あくまでも柔らかな物腰ですが、「もう一息だね」とか「大分良いけど、まだだね・・・わかるよねぇ」と、なかなか手放しでOKを出してくださる事がありません。先生の中での理想が高く、妥協することがないのです。

無口でゆっくりで頑固な子供と、丁寧に、ゆっくり確実に一つずつ進んで行く室谷先生のやり方。

何を習うにしても、初めの手ほどきと基礎は大変重要です。そういう初めの大事な時期に、10年間もかけて、このような丁寧な先生に習い続けられたということは、とても幸運でした。 しかし、どんなに良い先生でも、どんなに良い師弟関係を育んできても、習う期間が長くなるにつれ、やはりお互いに緊張感が薄れてきます。 私自身は、それまで室谷先生に不満など何も無く、このままずっと習いつづけていて良いものだと信じていましたが、ある時、他の先生のレッスンを受ける機会があり、「今までと違う先生に習う」という事の新鮮さに目を見開かされたのが、高校1年生になった時でした。     ・・・つづく

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