その44 ヴァイオリニストの筋トレ⑤ (リハビリ編)肩のインナーマッスル 

その44 ヴァイオリニストの筋トレ⑤ (リハビリ編)肩のインナーマッスル

肩が痛い!

初めて、肩に痛みを感じたのがいつ頃だったのか・・・正確には思い出せませんが、少なくとも30代後半までには、度々「右肩が痛くてヴァイオリンが弾きづらい」または「楽器保持し続けるのが辛い」という状況が起きていました。

そのためには「肩を鍛えなきゃ」と思って、筋トレメニューにも入れたのですが、やり方がイマイチだったため更に痛みが出てしまい、2019年に「これは本当にヤバい」と思ったのがきっかけとなり、身体立て直し計画が始まりました。

当時は、本番がある度に、肩や腕にテーピングを貼っていました。

専門的知識のある人に貼ってもらえる時はまだ良いのですが、ちょうど本番前にタイミングが合わない場合は自分で貼らなければならず・・・。でも、肩や背中側に自分で貼るのは、かなり難しいですし、貼っている時間が長くなるとカブレます。最悪でした。

肩にステロイド注射を打ったことも、何度もあります。

ヴァイオリニストにとっての「肩」

ヴァイオリンを弾く時には、右腕は必ず挙げていますし、肩関節を常に動かしています。

弾く弦によっては、かなり腕を上げることもありますから、肩が痛いというのは死活問題です。

左肩は、動かすわけではありませんが、楽器を保持する姿勢が特殊なので、肩関節には負担がかかっています。肩が正常に機能していないと、代わりに背中や首が頑張ってしまい、痛みが出ることがあります。

なので、ヴァイオリニストが「四十肩」になると大変。本当に苦しいのです。

私の場合は「軽い四十肩みたいなもの」と医師に言わましたが、軽いとはいえ、痛みが気になって、弾きたいようには弾けませんでした。常に痛みと相談しながら、力を出し切れない日々が続いていました。

痛みの原因

肩の関節って、他の関節と比べて、だいぶ可動域が広いですよね。

「可動域が広い」ということは、逆に言うと、安定性が少ない、ということでもあります。

周りのあらゆる筋肉が力を合わせて「肩」という機能を保っているわけですから、インナーマッスルがしっかりと働いていないと、安定性が減少したり、可動域が狭くなったり・・・

それを補うために、他の筋肉が必要以上に頑張らなければならず、バランスを崩したまま酷使すると、痛めたりします。

私も、インナーマッスルが極めて弱って、肩の機能が低下していたところに、頑張って無理をしてしまったために痛みが生まれ、不自由になって、さらに可動域を狭めて、筋力も弱って…、でも演奏会本番では急に頑張って、また痛めて…と、悪循環を辿っていました。

私がしなければならなかったのは、

眠ってしまったインナーマッスルを起こして、もう一度使えるようにしていき、肩の本来の機能を戻すこと。そして、ヴァイオリニストとしての本領を発揮するためには、その後はインナーもアウターも両方とも強化していく必要がある・・・とのことで、身体の立て直しを始めていきました。

インナーマッスル=体幹なのか?

さて。

インナーマッスルとは、なんなのでしょう?

身体の、より深層にある筋肉だということは想像できますが、

インナーマッスル=いわゆる「体幹」なのでしょうか?

ごく一般的に、大きな意味で言うと、身体の「胴体」の部分が「体幹」だそうです。「体幹」の定義は色々な解釈があるようですが(肩・首・股関節等も体幹に含まれるのかどうか・・・など)、とりあえず「胴体」と覚えておけば良いと思います。

大事なのは、肩には肩の「アウターマッスル」と「インナーマッスル」があるということです。

そして、例えば「体幹」の中心、腹部にも、「アウターマッスル」と「インナーマッスル」があります。

「アウター」→ 外側、「インナー」→ 内側、ですが…、

『インナーマッスルは日本語でいうと「深層の筋肉」となります。
その対義語はアウターマッスル(表層の筋肉)ですが
その違いは部位だけでなく働きにあります。

アウターマッスルは関節を動かすなど、直接動きに関わる筋肉です。
一方、インナーマッスルはアウターマッスルの補助として働いたり、
姿勢の調整をします。
つまりアウターマッスルが表舞台の役者に対してインナーマッスルは
縁の下の力持ち役です。』

※鍼灸治療院「肩こりラボ」HPより引用 

肩こりラボのパーソナルトレーニング・運動療法について | 肩こりや首こりの解消と改善なら鍼灸マッサージ院の肩こりラボ|学芸大学徒歩1分

インナーマッスルを鍛えるということは、「縁の下の力持ち」を最強にすること…ということですね。

映画や舞台では、どんなに良い役者陣が揃っていても、脚本家、監督、スタッフなど・・・スクリーンや舞台に登場しない人達が、どれだけ大切か。逆に、良い裏方が揃っていれば、役者は、自分の力以上のものが出せることもあるはず。

インナーマッスルって、物凄く重要ってことですね!

肩のインナーマッスルとは

では、肩の「インナーマッスル」とは、具体的に言うと?

・棘下筋

・棘上筋

・肩甲下筋

・小円筋

この4つで、「ローテーターカフ」とも呼ばれます。

と言われても・・・ピンと来なくて当然かと思います(笑)

肩関節の外旋(棘下筋と小円筋)

2019年当時、私の左肩周辺の不調は「楽器を保持するのが辛い」ということでした。(肩自体が痛いわけではなく、周り全部が辛い、という感じ)

5分でも辛くて・・・というと、驚かれるかもしれませんね。5分では、曲を1曲も弾けません。

もちろん、日々の練習も出来なくて、本当に困ってしまいました。

楽器を持つ時、左の肩関節は「外旋」しています。外旋した位置で楽器を保持しながら、指を動かしたり、ビブラートをしたり・・・。

その「外旋」のポジションを取る時に大事なのが、棘下筋と小円筋です。

このうち「棘下筋」が、とても弱っていた私。一番最初に行ったエクササイズは、この棘下筋を主に使い、肩関節を「外旋」させる練習でした。

↓ 棘下筋と小円筋の位置。2枚目の画像は、表層を取り除いたところです。

外旋のエクササイズは、このようになります。

これ、簡単に見えますよね?

はい。通常であれば、まったく難しくないですが、痛みがあった当時の私は、可動域がとても狭くなっていました。可動域を広げようとすると、棘下筋が弱いため、きちんと使えず、代わりに周りのアウターマッスルが助けに来ようとします。

それが、コリや痛み、辛さに繋がっていました。そこで行ったのが、

「周りの代償を出さずに、主に棘下筋の力で外旋させる」

とにかく、周りの筋肉を力ませないようにしながら、棘下筋のみを意識して動かす練習です。

肩関節の外転(棘上筋)

肩関節の外転 = 腕を真横に上げることです。

腕を一番下から上げていく時、初動時は棘上筋が働き、その後、アウターマッスルである三角筋が働きます。

ヴァイオリンを弾く時は、常に右の肩関節を「外転」していますので、棘上筋も三角筋も重要ですが、まずはインナーマッスルである棘上筋がきちんと働けるように、エクササイズを行いました。

「インナーマッスルのみを集中して動かす」というエクササイズ。それも、「アウターマッスルが登場する前の段階まで」。

これ、実は「どこにも力を入れないで動かす」と言っても良いような動作で、感覚を掴むまでが、とても難しかったです。「エンプティカン」と呼ばれるエクササイズです。

肩関節の内旋(肩甲下筋)

ヴァイオリン演奏時の右腕の動きは複雑かつ混合なので、難しくて、解剖学的には説明出来ませんが、強い音を出したい時には「肩関節の内旋」という動きを、すごく使っているようです。

私は、その「内旋」の筋力も、とても落ちていました。

ひとつ前のエッセイ「その43 体幹の重要性」でも書きましたが、私は不調だった長い間、「力強さ」というものを段々と失っていきました。その理由のひとつは、この「内旋筋力」の低下と思われます。(もちろん、その他、あらゆる筋力が低下していたのですが)

「内旋」のエクササイズをやり始めたら、明らかに、強く弾くことが楽になりました。

「内旋」するには「肩甲下筋」の筋力が重要なので、「ベリープレス」という方法で、地味に地味にエクササイズをしています。

「ベリープレス」は、普通の人は、普通に出来るのかもしれません。エクササイズというよりは、まさに「リハビリ」です。

歯磨きのように、エクササイズ

私は、これらの肩回りエクササイズを、毎日の歯磨きのように行っています。

トレーナーさんいわく、

「ヴァイオリンを弾かない人なら、継続してやらなくても良いですが、

ヴァイオリンをずっと弾き続けるのでしたら、やるべきです」とのこと。

ちなみに、ヴァイオリニスト以外の方が「四十肩」になった時にも、これらのエクササイズは有効ですから、

肩のインナーマッスルを活性化しておくことは、誰にとっても役に立ちそうです。

肩のエクササイズをする前に重要なこと

ここまで、肩のインナーマッスルのエクササイズのお話をしました。

ここで、大変重要なことがあります。それは・・・

「チェストアップ」です。

「エッセイ その39」でお話した「チェストアップ」。これが出来ていないまま、肩のエクササイズをしても、まったく意味がありません。

1にも2にも、とにかく「チェストアップ」が大事!です。

ボーイングの癖、ありませんか?

ヴァイオリンを弾く時には、肩は必ず動かします。

スムーズに、なめらかに、そして瞬発的にも、「あらゆる動きや強さに対応出来る肩」が理想です。

ヴァイオリンのレッスンでは、先生も生徒も、肘から先に意識・注意が行くことが多いです。

確かに、手首周りや指の動きが、ボーイング上達のカギであることは確かです。

でも、腕は背中から動かすものですから。肩関節や背中に意識を移動させることで、解決に繋がる場合も、あります。

「ボーイングがスムーズにいかない」「思うような音が出ない」「音が小さいと、よく言われる」など、ボーイングに弱点や違和感がある場合、肩の動きに起因することも、あるかもしれません。

なにかお悩みがありましたら、是非一度お問い合わせください。

なお、このページに記載したエクササイズ、及び動画の内容は、リハビリ/トレーニングの専門家の指導のもとに行なっているものですが、あくまでも個人的体験に基づくものです。

私の文章や動画では説明しきれていないことも多くあります。

痛みがある場合は自己判断で行わず、まずは医師や専門家にご相談ください。

ただ、医師の診察受けても一向に良くならないなど、お悩みが長期化するような場合や、ヴァイオリンが弾けない程ではない…という場合は、解決の糸口見つかるかもしれませんので、お気軽にご相談ください。

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