その46 「脱力」できていますか?

その46 「脱力」できていますか?

「脱力」できてますか?

ヴァイオリンを習っている人なら、一度は言われたことがあるのではないでしょうか。

「もう少し脱力しないと」

「力んでいる/力が入っちゃっているから、力抜いて」

「右手が固い」「柔軟にして」「柔らかくして」「突っ張らないで」

「それはね、脱力が出来てないんだよ」

私も、今まで生徒さんに何度も言ってきましたし、私が学生の頃は、自分が言われる立場でした。

私の場合は「右肘に力が入ってるから、弓が真っ直ぐにならないんだよ」と、よく言われました。

脱力は、右手/右腕に関して言われることが比較的多いかもしれませんが、右手だけでなく、左手/左腕や、首でも、同じく重要なことです。

ヴァイオリンの上達のあらゆる段階において、非常に大切なポイントなのですね。

どうやって脱力するのか

でも、ね?

例えば右手だったら、

「力を抜いたら弓が持てないよ」

と、思いませんか?

「どこを」「どのくらい」「どうやって」脱力するのか、明確に説明出来る人は、意外と少ないのではないでしょうか。

だから、

「どうやってやれば良いのか」「何を努力すればよいのか」が曖昧なままの人が多いと思うのです。

脱力のコツ

最初からうまく脱力出来る人は、ほぼいません。ですから、「脱力」は「みんなの課題」と言ってよいと思います。

小林倫子の結論を、まず申し上げますと・・・

「どこを」「どのくらい」「どうやって」は、人それぞれ違いますし、

残念ながら、コツはありません。(きっぱり)

・・・・・・

「コツ」なんてものが存在したら、もっとヴァイオリンの習得が簡単になるはず、と思いませんか?

「余計な力」を抜く?

今まで、「脱力」と言われたら、「力を抜く」ことばかり考えませんでしたか?

でも、力を抜いたら、弓を保持することすら難しいですね。

なので、「必要な所の力は抜かないで、必要でない力を抜く」なんて、説明されたりします。

じゃあ、どこが必要でどこが必要でないのか? 

それを説明することは、可能といえば可能ですが・・・

「ここの力を抜いて、ここは抜かない」なんてこと、そもそも、出来ますか? 

「右手の力を抜いて、左脚を踏ん張る」なら、なんとなく出来そうですが、そういう話ではなく、

何指は力を抜いて、何指はしっかり、とか、

弓を持ちながら手首の力を抜いて・・・、というようなお話です。

それが出来る人は、多分、すでにヴァイオリンが上手なのではないでしょうか!

力む理由

しかし、なぜ力んでしまうのか?と考えると、一つの仮説が浮かび上がります。

「筋力が弱い」のです。

力の弱い人が、強い人と同じことをしなければならない時、弱い人は「頑張り」ますよね。

全身で頑張っても、強い人には勝てません。だから、頑張るのです。

力いっぱい頑張ったら、指が突っ張ったり、肩が力んだり、首が固まったりするのは、仕方のないことではありませんか?

ヴァイオリンでも、弱い人が、強い人と同じように上手く脱力することは、無理なのです。

では、具体的にどこの筋力が弱いのか。それが、人によって様々なんですね。

例えば、右側の、

小指の筋力、親指の筋力、掌の筋力、腕を動かす筋力、肩関節を動かす筋力・・・

左側の、

親指で支える筋力、人差し指以下の、それぞれの関節を屈曲/伸展する筋力と、耐える筋力、指と指の間を広げる筋力、押さえる筋力…

そして、立って腕を動かすのですから、体幹もしっかりしていなくてはなりません。

挙げたらキリがありませんね。

筋力が弱いと、どこかが助ける(代償)

人間の身体って、弱いところがあったら、他のところが自動的に助けてくれます。

どこかの筋肉が弱くて、ちょっとやり難くても、

弱い部位の代償として、他の部位が頑張って、なんとかしてくれます。

でも、この「代償」ということが、体のあちこちの力みに繋がります。

力んではいけないところ(なるべく脱力したい箇所)が力んでしまうと、音色や音程が安定しなかったり、思い通りに音を出せなかったり、技術に影響が出ます。

曲が難しくなればなるほど、代償が起きているとスムーズに動けなくなっていき、どこかで「これ以上のレベルには行けない」と壁にぶち当たります。

壁を突破するには、本来必要なところに筋力をつけて、より理想的な体の動きを体得するしかありません。

小指の弱さが、手首を力ませる

例えば、右手の小指の力が弱い場合、足りない筋力の分の仕事を、他の指が代わりに行います。(薬指とか、人差し指など)

そうすると、その「他の指」は必要以上の仕事をしなければならないので、力んでしまって、上手く働けません。そして、手首も力みます。

手首は力むと固まってしまうので、柔軟性がなくなり、ボーイングに必要なコントロールが効かなくなる・・・という風に。どこかひとつの原因で、たくさんの影響がありますし、そもそも、原因となる「筋力不足」は1か所だけではないことが多いので、原因と影響が、複合的かつ複雑に絡み合います。

代償を出さない

そんな風に、結果的に「全体的に力んでしまう」ことを改善するには、「弱いところを強くしていく」しかありません。

「どこかを動かす時(または支える時)に、メインとなる筋肉以外を必要以上に力ませることなく(他の筋肉に代償を出さずに)充分に力を発揮させられるようになる」ということを、目指します。

該当の筋肉をピンポイントで鍛え、他の筋肉の力を借りなくてもある程度動かせる(支えられる)ようにしたいのです。

「必要以上に、代償を出さずに」

これは、「エッセイ その42 ヴァイオリニストの筋トレ③(リハビリ編) ドローイン」

の中でも出てきました。トレーニングをするにあたっての(私の場合は特に)重要なポイントです。

ヴァイオリンの持ち方・動かし方の習得、脱力をマスターする・・・というのは、本質的にはトレーニングと同じなのです。

指トレ

先ほどの、右手の小指の力が足りないパターンを挙げましたが、右だけに限らず左手も、小指の筋力が弱い方はとても多いです。

指の筋力に関しては、ヴァイオリンの練習をするだけでは、なかなか思うように向上しない可能性もあります。

そんな時は指トレ。小指のエクササイズだけでも何通りもありますので、その人に合ったやり方を探すことが、筋力アップへの近道となります(※)

筋力がアップしたら、今まで出来なかった弾き方が出来るようになります。

綺麗な音、自在な表現への、確かな一歩です。

一つできるようになると、色々なことが、見えてきます。

「脱力」しようとしなくても、結果的に脱力に繋がっていくはずです。

筋力があっても

「脱力できないのは、筋力が足りないから」という仮説のもと、お話してきました。

が、「手にも指にも、筋力はあります!」という方でも、脱力が出来ない・・・とお悩みの方はいると思います。

その場合は、身体の/筋肉の「使い方」が、上手くいっていないというパターンです。

こちらも、「正しい使い方を練習する」ことが必要になり、根気が必要な作業となります。

より「美しい音」「響きのある音」を目指すため、身体の使い方を日々修正/更新していくことは、アマチュアにとってもプロを目指す者にとっても、とても大切なことです。

「みんなの課題」である、よりよい「脱力」を目指してみましょう。

「脱力」の効果

「脱力」が出来ている人と、あまり出来ていない人の、決定的な違いは何だと思いますか?

それは、

音の響きです。

美しい音は、脱力なくしては到達できません。

要するに??

美しい音は「筋力」から、ということなのです!

(※) エクササイズは、決して無理をせず、ご自身に合ったものを続けることが大切です。が、筋力アップを目指すからには、「筋肉痛」その他が出ることは避けられません。指トレ経験のある指導者、または解剖学的な知識のあるトレーナー・治療家・医師等に、きちんと指導してもらってください。

お問い合わせ、ご質問等ありましたら、お気軽にご連絡ください。

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