その71 肩甲骨は「動いたほうがいい」のか? (ヴァイオリニストの筋トレ)

その71 肩甲骨は「動いたほうがいい」のか? (ヴァイオリニストの筋トレ)

肩甲骨。

皆さんの背中についている、左右一対の、三角のような形をした骨ですね。

最近、よく聞かれるようになった質問があります。それは

①「肩甲骨はがしって、いいの?」

②「肩甲骨って、動いたほうがいいんでしょ?」

さて、どうなんでしょうか??

そんな肩甲骨について、今日はお話してみたいと思います。

肩甲骨はがし

皆さんは「肩甲骨はがし」をしてもらったことはありますか?

「肩甲骨はがし」は、なんだか分からないけれどう良さそうなイメージがあります。だからこそ、整体院等の宣伝文句に入っていたりするのですよね。

凝り固まった肩甲骨周りをほぐして、肩甲骨と肋骨の間に指を引っ掛けて、引き剥がすように引っ張る…という感じでしょうか。

肩甲骨周りは誰もが凝りやすいので、肩甲骨と肋骨の間に指を引っ掛けられないほどギュッと固まってしまう事が良くあります。ほぐされれば気持ちいいのは間違いないです。肩や背中、腕も、軽くなった感じになりますね。

なので、質問①の「肩甲骨はがしは、いいの?」は、気持ちいい、ほぐれる、という意味で、YESとなるでしょう。

しかし、それをすれば「身体の調子が絶対に良くなる」とか、「すぐに何かが治る」というようなものではありません。あくまでも「ほぐれる」だけです。(ほぐれた結果、痛みが和らぐこともあるかもしれませんが)

それに、「人に揉んで動かしてもらったから緩んだ」というだけですよね。自分の力は何も使っていないわけです。ですから、遅かれ早かれ再び凝ってしまうのではないでしょうか。

そもそも、肩甲骨を「固まらせない」ほうが、より良いと思いませんか?

では、とりあえず②の質問へ進みます。

「肩甲骨は、動けば動くほど良いのか?」

答えは、NOです。

凝り固まっているよりは、動きが出せる状態の方がいいですが、動けば動くほど…というのは別の話ですよね。

では、肩甲骨の適切な状態、適切な動き、とは、どのようなものなのでしょうか。

「適切な動き」

とりあえず、基本的な「肩甲骨の適切な動き」について説明したいと思います。

肩甲骨は通常、「腕の動きに伴って」動きます。

腕を下から上まで挙げていく時、

– 腕を降ろしている状態〜挙上60度くらいまで → 主に腕の骨(上腕骨)が動いていきます。(運動軸は上腕骨頭)

– 60度〜120度くらいまで → 肩甲骨と腕の骨が共同で動いていきます。(運動軸が移動していく)

– 120度〜約180度(頭の横)まで → 主に、肩甲骨が「上方回旋」という動きをすることによって、腕も自然に挙がっていきます。(運動軸は肩甲骨)

肩甲骨と上腕骨、それぞれ動く割合が変化しながらも、共同作業のように腕を挙げていくのです。

ですから、筋肉が固くなって肩甲骨の動きが阻害されると、「腕が上まで挙がらない」という状況にもなり得ます。

「ショルダーパッキング」

先ほど、肩甲骨は「腕の動きに伴って」動くのが適切だと言いましたが、敢えてそうしない場合も、あります。

そんな「肩甲骨が動いてしまってはいけない場面」をご紹介したいと思います。

私が今のトレーナー氏に指導してもらうようになって程なく、教えられたことがあります。それは

「ショルダーパッキング」というもの。

これは、「サイドレイズ」という肩のトレーニングを始めた頃に言われたことです。

サイドレイズは、腕を挙げ下ろしする種目で、主に三角筋という肩周りの筋肉を鍛えるものです。

この種目では、腕を、床と水平になる高さ(90度)まで挙げます。通常だったら、90度では、肩甲骨も動き始めていますが、このトレーニングの時には、肩甲骨が一緒に上がらないように一定の位置に安定させて行う必要があります。そのことを「ショルダーパッキング」といいます。(パッキング=packing=固める)

何故パッキングを行うかというと、

肩甲骨が動いてしまうことによって、トレーニングとして、肩の筋肉に効きにくくなってしまうというということが1つ。

そして、そのままサイドレイズをガンガン(負荷をかけて)続けてしまうと、肩を痛めやすいのです。

トレーニングを行う時には、その目的によって、このように身体の一部をコントロールしながら行うことが必要になってきます。

私の場合、腕を挙げ始めるとすぐに肩甲骨が不安定に動いてしまう癖があったので、「ショルダーパッキング」を習得するのがとても難しかったです。

相反すること

・肩甲骨が「適切に動くこと」

・安定させること= 動かないように制御する

この2つは、相反するように見えます。

結局、動いた方がいいの?動かない方がいいの!? と混乱しますよね。

しかし、これは両方とも出来なければならないのです。

そして、どちらも、筋力によってのみ可能です。

しかも、どこかの筋力だけが高ければ良いというものではなく、肩甲骨に関係する全ての筋肉がバランスの良い状態を保ち、協調しながら働くことが出来なければ、この2つは両立できません。

よい肩甲骨の状態とは?

ここまでのお話をまとめると、

・肩甲骨は、固まっていてはダメ。かといって、勝手に動き過ぎてもダメ。適切、かつスムーズに動くべし。

・制御する筋力と能力が必要。

という感じでしょうか。

私の考えでは、

エクササイズや運動習慣の少ない方は、肩甲骨が固まり過ぎてしまうリスクの方が大きいと思います。働き過ぎ、頑張りすぎで運動する時間なんて無い!という方は特に要注意です。

そんな時は、肩周りを動かしてみたり、ストレッチをしたり、他人にほぐしてもらうなどして緩めなければなりませんが、緩めっぱなしでは不十分なのですね。肩甲骨が適切な動きを取り戻せるように、周りの筋肉を訓練してあげる事が必要です。

私は剥がしていないけれど

私のコンディショニング・セッションを受けて、「肩甲骨はがしをした後のように体が軽くなりました」という感想をくださる方が複数いらっしゃいます。

私は「はがして」はいないのですが…、

エクササイズやストレッチを行うことによって、まるで肩甲骨はがしの施術を受けたかのように、身体がほぐれて、軽くなられたのですね。

しかし私の目的は、緩めるだけでありません。肩甲骨が適切に動けるように、周りの筋肉を使う訓練を行い、適切な筋バランスを目指してエクササイズを行います。肩甲骨のコンディションは、肩のコンディション。肩がスムーズに動く事は、楽器、特にヴァイオリンを弾くためには必須です。

エクササイズを行う前段階として、とりあえず緩めていただいているだけなので、、、緩めた段階で満足してはダメですよ?

音を紡ぎ出す、土台。

肩甲骨は、腕や手の土台です。

土台のコンディションを整えておく事は、

手や腕の繊細なコントロールを求める演奏家にとって、楽器の練習以前に極めて重要な事ではないでしょうか。

是非、肩甲骨・肩のコンディションを、自分の手で整えられるようにしていきましょう!

コンディショニング/トレーニングにご興味のある方は、是非お問い合わせ下さい。

肩の痛みに悩んでいる方にもお勧めです。

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「ヴァイオリニストの筋トレ」シリーズ

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その39 ヴァイオリニストの筋トレ②(リハビリ編)チェストアップ

その42 ヴァイオリニストの筋トレ③(リハビリ編)ドローイン

その43 ヴァイオリニストの筋トレ④ 体幹の重要性

その44 ヴァイオリニストの筋トレ⑤(リハビリ編)肩のインナーマッスル

その45 ヴァイオリニストの筋トレ⑥(リハビリ編)「股関節の謎」ヒップヒンジってなに?

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