その72 偏平足? 困った足のお話 (音楽家のための身体コンディショニング)

その72 扁平足? 困った足のお話 (音楽家のための身体コンディショニング)

「人生半ば」の出来事

あれは、コロナ禍よりも前…2018年頃のことでした。

3月、肌寒い中でも日差しが柔らかくなってきた頃、1泊2日の一人旅に出かけました。

バウムクーヘン博覧会、その他、美味しいものを求めて、大好きな神戸~阪神間を歩こうと思っていました。

神戸空港から、とりあえず宿泊先にチェックインを…と移動していたら、ちょっと右足の外側に違和感を覚えました。その違和感は、夜には痛みとなり、次の日には歩くのが大変になってしまいました。

楽しみにしていた旅行でしたが、途中で足が痛くなったので予定を早めて帰京し、帰宅後に病院へ。すると、「扁平足ですからねぇ、今まで大丈夫だったとしても、それじゃあ痛くなるのも仕方ないですよ。人生、ちょうど半ばくらいですよね、そろそろ足底板(インソール)を作りましょう。」と言われました。(人生半ば・・・という言葉には敏感に反応してしまいました)

足底板(インソール)をつくる

病院で作ってもらうインソールは、ちゃんと足の型を取って作るもので、健康保険が適用される「装具」です。オーダーメイドなのでピッタリ。作成後、そのインソールを入れて歩く分には、足は痛まなくなりました。

しかし、そのインソール、かなりガッツリとしているので、スニーカー以外には使えないという難点がありました。スニーカーでも、ちょっとお洒落なシュッとした物だと入りません。なので、靴のお洒落を楽しむことが出来なくなりました。生活の張りが無くなりましたが、仕方ない。

ちなみに、インソールって毎日使うわけですから、夏場は汗が染み込みます。洗うために替えが欲しいところですが、保険適用で作成してもらうには、医師の診断が必要なだけでなく、1年半に1回しか作れません。最初の1年半はどうにか1足分で乗り切り、1年半毎に新しいものを作成して…ということを3回行いました。

・・・現在はどうしているか?と言いますと、

もうインソールを使わなくても、お洒落なパンプスを履いても、日常生活の中で足が痛くなることはなくなりました。間違いなくトレーニングの効果です。

偏平足と回内足

さて、今日の本題に入ります。

私は、扁平足…というか、「回内足」です。特に右足。

「扁平足」というのは、元々の足の形が扁平…土踏まずのアーチが少ない、という事ですが、私の場合は、足そのものには一応土踏まずがあるのですが、立位で足に体重がかかると、アーチをキープ出来ない、足が内側にベタッと倒れる、土踏まずが無くなる…。それを「回内」してしまう足、「回内足」といいます。

この写真では、まだ土踏まずが(一応)あります ↓

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後ろから見ると、こんな感じ ↓

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でも、体重をかけると、こうなります。上の写真と比べて、青い矢印に挟まれた部分が左にスライドしているのが、分かりますでしょうか? ↓

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上から見ると、こんな感じ ↓

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土踏まずが潰れると、こうなります ↓

着地する度に足が内側に倒れるので、その分、足の外側の筋肉がその都度グイっと引っ張られて、痛くなっていたのです。(赤い矢印の場所)

今はトレーニング効果で足周りが強くなったことと、痛くなりそうな靴を連日履かないなどの対策によって、日常生活ではインソールが無くても大丈夫になりました。

が。

できれば、「内側に倒れない足」になりたいのです。アーチをキープしたい!!

回内足のリスク

回内足のリスクは、以前の私のように「足が痛くなってしまう」ほかにも、膝だって股関節だって、痛くなる可能性があります。

例えば私の場合・・・

回内すると重心が内側に入ってしまうので、当然、膝も内側に入ってきます。内股になる感じ。

スクワットを行う時に膝が内側に入ってしまう(ニーイン)と、膝を痛めるリスクがとても高くなります。(女性はニーインしやすいと言います。ニーインしてしまう原因は回内足だけではないですが、回内足が良くないことは確実ですよね)

スクワットで、バーベルの重量を上げていった時…、例えば50kgを持ち上げた時に、足が支えている重量は、体重と合わせて100kgを超えます。そんな時にニーインしていたり、足が回内していたら、膝や足首が一気に痛くなりそうじゃないですか。

トレーニングをする時はフォームが大切と言いますが、そのためには、回内足って最悪なのです。

普段はインソール無しでも歩けるようになった私ですが、重量を扱うトレーニング時には、今でもインソールが必須です。

インソールに寄りかかる

しかし、インソールに頼っていると、どうなるか。

長年インソールを使い続けた私が、やっと気付いた重大な事実はなにかと言いますと、、、

私の土踏まずの下には、インソールの膨らみがあります。 

インソールの膨らみを土踏まずで感じると、「そこに体重をかけても大丈夫」と、身体が判断してしまうのです。

「寄りかかるもの」がある、ということは、「寄りかかって良い」ということですよね!?

ですから、インソールを使い続けたら、インソールに頼ってしまって、「回内しない足」に近づくことはないのです。

これを、腰痛時の「コルセット」に例えますと・・・

腰痛の方は、痛みを軽減するためにコルセットを装着することがありますが、コルセットで症状が楽になるからといって頼る癖がついてしまうと、益々、コルセットを外した時に「自分で支える力」が弱くなっていき、腰痛を発症するリスク自体は増えていきます。

インソールって、足が痛くなるのを防ぐ効果は抜群ですし、足首よりも上の部位の不調改善にも使われます。魔法のようにインソールを操って、膝や股関節の痛みを解消する治療家の方々もいらっしゃるほどです。

でも、症状改善の効果はあれど、「真っ直ぐ着地する」という「足の機能」は改善しません。むしろ、人によっては(私の場合は)回内する癖を促進してしまいました。

さすがに、100kgの重量を真っ直ぐ支えられるようになるのは・・・到底無理かもしれませんが、少なくとも、歩く時にもう少しアーチをキープ出来る足になりたい、と、今は思っています。

私にとっては、「インソールが無くても痛くならない足」という現時点は、通過点であり、今度は、「アーチがある足」「潰れない足」を目指してトレーニングをしています。

そして、それを実現するために考えなくてはならないのは「足の裏」だけではありません。

脚全体、そして体幹。身体は全て繋がっていますからね。

上半身と下半身は影響し合う

私は、ヴァイオリニストや音楽家のための、機能的な身体を獲得するためのトレーニングを提案しています。

音楽家が鍛えたいのは、とりあえずは「手指をコントロールする能力」だと思います。

でも、そればかりを追いかけて、その他をおろそかにしていると、身体のあちこちに支障をきたすことがあります。

手首が痛い、腕が痛い、肩が痛い、腰が痛い・・・

私たちは日頃、「例え足腰が痛くなっても、手が無事ならなんとかなる」と思いがちです。

でも、足腰が痛くなった時、私達の身体の動かし方は自動的にいびつになっていきますので、結果、肩や腕や手首・・・まで不具合が広がってしまうことは、よくあります。

コンディショニングの威力

身体全体のバランスや使い方を全体的に見て、弱点を改善し、機能的な身体を獲得することは、様々な利点に繋がります。

私の足の場合は、

「真っ直ぐ」に体重をかけることが出来るようになれば、蹴る力が真っ直ぐに地面に伝わり、そこから帰ってくる「床反力」を真っ直ぐに受けることが出来る・・・力が逃げることなく、効率的に使えます。

それによって、トレーニングの効率が良くなりますし、立位演奏時の体幹の安定性にも好影響を及ぼすでしょう。その安定性によって、上半身の余計な力みを減らせたり、コントロールをより精密に出来る可能性が広がります。

音楽家のためのコンディショニング/トレーニング

身体の機能を改善、または再獲得することによって、演奏動作中の力の伝わり方が効率化し、身体的な余計な負担を減らしつつも、結果的に思い通りの演奏に近づける。

「動作の効率化」というのは、普段から演奏家が追い求める大切な要素の一つですが、私はそれを、「楽器の練習」から少し離れて、エクササイズによって実現しようとアプローチしています。

実際に演奏する姿勢を拝見して、身体の不調や、演奏上の欠点に繋がるような癖を発見し、修正のためのエクササイズを行う、というパターンと、

楽器から離れて、普段の姿勢や、筋力バランスのチェックからエクササイズを提案するパターン、

両方とも行っています。

気になる方はお気軽にお問合せください。

不調の改善にも効果を発揮することは、私自身の経験から保証できますが、不調の内容によってはコンディショニング/トレーニングだけでは改善が難しいこともあります。そのような場合には適切な医療機関、治療院をお薦めしております。

コンディショニング/トレーニングのページはこちらへ

「ヴァイオリニストの筋トレ」シリーズ

その38 ヴァイオリニストの筋トレ①「私と筋トレ」

その39 ヴァイオリニストの筋トレ②(リハビリ編)チェストアップ

その42 ヴァイオリニストの筋トレ③(リハビリ編)ドローイン

その43 ヴァイオリニストの筋トレ④ 体幹の重要性

その44 ヴァイオリニストの筋トレ⑤(リハビリ編)肩のインナーマッスル

その45 ヴァイオリニストの筋トレ⑥(リハビリ編)「股関節の謎」ヒップヒンジってなに?

その52 ヴァイオリニストの筋トレ⑦「スクワット」ができるまで

その55 ヴァイオリニストの筋トレ⑧ ヴァイオリンに良い筋トレ、教えて!

その56 ヴァイオリニストの筋トレ⑨ 「筋肉痛」のお話

その57 ヴァイオリニストの筋トレ⑩ 腹筋との戦い

その62 肩エクササイズの重要性 

その63 肩エクササイズ(ウォームアップ編) 

その64「レンタルジム」を知っていますか? 

その65 「腹筋を割りたい」 

その66「腰痛」か「筋肉痛」か。その時どうする? 

その67 下っ腹のおはなし 

その68 肩凝りにならないようにすることは可能か? 

その69 ヴァイオリニストと、トレーナー? 

その70 枕は合っていますか? 

その71 肩甲骨は「動いたほうがいい」のか?

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