その24 遠くにいても

私は、2年に一度のリサイタルを開催する時に、必ずイギリスの作曲家の作品を取り入れています。ですから、リサイタルのプログラムを組み立てる際に、一番最初に考え始めるのが「どのイギリス曲にするか」ということです。その曲を決めたら、同じ作曲家の作品でアンコール曲としてふさわしいものがあるかどうか、リサーチします。

 昨年(2019)のリサイタルで取り上げたイギリス人作曲家は、チャールズ・ヴィリアーズ・スタンフォードでした。まず、スタンフォードの「アイルランド狂詩曲第6番」をプログラムに組み込むことを決めた後、アンコールにふさわしい作品を探しました。

その際に参考にしたCDがこちらです。

スタンフォードの作曲した、ヴァイオリンとピアノのための作品をほぼ網羅したCD。その中から私は、「Alubum Leaf(アルバム綴り)」という小品が気に入りました。そこで、「アルバム綴り」の楽譜がどこで手に入るかを調べてみました。

 あまりポピュラーな曲ではない場合、楽譜を手に入れることが難しいことがよくあります。今はインターネットのお陰で調べられる範囲が広がっていますが、それでも、今回はなかなか見つかりませんでした。

 そこで、このCDの演奏者に聞けば分かるに違いない、と思いました。

例えば、その演奏者が今教えている大学などに手紙を書いたり、メールを送ったりすれば、返事をもらえる確率は低くないだろうな、と思い、リサーチしてみました。

すると・・・CDのヴァイオリニスト・Alberto Bologniさんを、Facebookで発見!

 アルベルトさん、明らかにイタリア人、という名前で、現在もイタリア在住っぽい。

音楽界は狭いし、イタリアに住む私の同級生もいるし、Facebook上でもしかしたら共通の友達もいるのでは?と思いましたが、それは、いませんでした。残念。

でも、せっかく見つけたので、突然でしたがメッセージを送ってみました。友達として繋がっていないと、メッセージを読んでくれないで終わってしまうかも・・・と心配したのですが、結構すぐにお返事をくださって!

「CD聴いてくれてありがとう。(中略)楽譜のことはよく覚えていないんだ。共演者(ピアニスト)のChristopherなら分かると思うから、彼にメールしてみてください」とのこと!

・・・優しいなぁ。

早速、ピアニストさんにメールをしましたら、なんとも丁寧なお返事そして、いきなり楽譜を添付してくれた!

いわく、実はその曲の楽譜は出版譜としては出版されていないのですって。あるチャリティ行事の際に作った「本」に、スタンフォードが曲を寄贈したので、その「本」の中に載っているのみ。だから、本当に掘り出し物の曲だったのです。

「本」は古書店などで手に入れることしか出来ないものだから、楽譜、送りますよ、と添付してくれました。

「日本でスタンフォードの曲を弾くなんて、初演じゃないの?頑張ってね」

どこまでも優しいお方。

さて、楽譜を手に入れたので、めでたくアンコール曲決定。2019年11月のリサイタルのアンコールでお披露目いたしました。

で、時が過ぎ・・・今はコロナ禍中でございます。

時間ができたので、過去のDVDなどから抜粋・編集をして、YouTubeに上げる作業をしてみました。

「アルバム綴り」も、無事YouTubeに上がりました。

そこで「あ、このYouTube動画を、あのCDのお二人にお見せしよう!」と思い立ち、リンクを貼り付けて、またメッセンジャーとメールを書いてみたのです。

そうしたら。

すぐに観てくださいました。

私は、メッセージの最後に「世界的にこんな状況になるなんて想像しませんでしたが、なるべく近い将来、音楽家たちがまた、一緒に音楽を奏でられることを祈っています。お気をつけて!」と書いたのですが、

明らかにイタリア人のヴァイオリニスト、アルベルトさんだけでなく、ピアニストのクリストファーさんも、イタリア在住なのですって。

「でも僕たちは無事です。いつか、お会いできて、一緒に演奏が出来たらいいですね」

というお返事をいただきました。

こんな状況の中、一本の動画、一つの小さな曲「アルバム綴り」が、一瞬でも私達の心を繋いでくれて、じんわりと温かい気持ちにさせてくれた。これって、すごく幸せなことです。

遠くにいても、まだ会ったことのない間柄でも、すごく温かいやり取りをさせていただきました。

音楽の力、ですね。

その、一本の動画は、こちらです。

2019年11月24日、小林倫子ヴァイオリン・リサイタルの最後、アンコールで演奏させていただいたものです。

どうかご覧ください。 

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