その47 昔のダイエットのせいで、ヴァイオリニストとしての地獄を味わった話 〜すべては、そのダイエットから始まった〜

その47 昔のダイエットのせいで、ヴァイオリニストとしての地獄を味わった話

〜すべては、そのダイエットから始まった〜

私のホームページやSNSをご覧くださっている皆さまは、驚かれる方もいるかもしれませんし、もしくは、「やっぱり、そうだと思った」と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが…

私は昔、ダイエットをしていました。

いえ、当時は「自分がダイエットしている」とは認めていなかったのですが、今考えると、確かにしていたのです。

そして、その結果得たものは、いわば「老化した身体」でした。

もしかしたら、深刻な生命の危機にも近付いていたのかもしれません。その前に「こちら側」に戻って来られたのは、本当に良かったと思いますが、長い長いダイエットの代償は、更なる長い戦いに繋がっていきました。

その「長い戦い」そのものについては、特別エッセイ「ヴァイオリニストの痛みとリハビリの日記」に執筆しておりますが、今回は、その「長い戦い」に至るずっと前、事態悪化の最初のきっかけである「ダイエット」について、お話しようと思います。

スリムへの憧れ

私は、高校生の頃までぽっちゃり体型だったので、スリムな体型に憧れを持っていました。

といっても、運動や、体を動かすような習慣はなく、小中学校の「体育」が唯一の運動だったのですね。(体育の授業って、しみじみ大切だなぁと思います)

音楽学校に進学した後は、(ヴァイオリンを弾く以外は)全く運動らしい事をせずに過ごしていました。

高校2年生の夏休み、初めて行ったヨーロッパで、少しケーキを食べ過ぎてしまい、帰国後に本番の衣装が入らなくなってしまったのをきっかけに、「ちょっと痩せたいな」という気持ちを少しずつ行動にしていくようになります。食べ物に気を付けるようになりました。

そう、運動をするのではなく、食べるのを減らす、という方法しか考えませんでした。

「少しずつ」ダイエット

その後留学時代には、憧れの自炊生活。好きなように食事をコントロールできるようになり、ダイエットも加速していきました。

その頃、「ダイエットをしていてもタンパク質を減らしてはいけない」という知識が、一応はあったのですが、実践できていなかったようで、少しずつ減っていく体重と共に、筋肉もどんどん落ちていたのだと思います。まったく気づかずに。

まだ20代でしたので、ダイエットによる体の不調は感じていませんでしたし、演奏には、なにも支障は出ていませんでした。

これ以上痩せてはマズイ

ダイエットを意識し始めてから11年、28歳の頃でした。日課のように乗っていた体重計で、恐ろしい数字を見ました。

「これ以上体重が減ってはいけない」と、その時やっと思ったのです。

さすがにその頃には、とても痩せていたので、時々体調を崩すこともありました。でも、どれも些細な事でしたし、まだ、演奏に支障はありませんでした。

ただ、本当に恐ろしい数字だったので、その時からは「なるべく食べるようにしよう」と思い始めたのです。が、

それまで何年も、「なるべく食べないように」と思ってきたマインドは、なかなか転換出来ませんし、実際に胃も受け付けなくなっていました。食べた方がいいのは分かっているけど、ストッパーがかかってしまうのです。「満腹」の基準も、だいぶ低くなっていました。

やっと体重回復、その後?

それでもなんとか、少し体重が戻ってきた頃、30代半ばで、手や腕・首肩などに痛みが出やすくなりました。

体重が戻ったから「前より元気になったはず」と思っていた頃のことですから、理由が分からず、悩みました。

20代に痩せていたという事実と、30代半ばの身体の不調を、結び付けて考えなかったのです。

戻らなかったもの

しかし今、リハビリとトレーニングを経て本格的に回復をして、やっと分かりました。

長い間のダイエットによる、筋量の減少 → その後体重は戻っても「筋肉量」や「筋力」はそれ程戻らなかったのです。

長い期間をかけて変化したものは、簡単には戻りません。

結局、ダイエットを始めた時から15年以上、ダイエット辞めた時から7年経って、大きなツケとなって戻ってきました。

省エネ人間

実際の筋肉量や、筋力以上に、更に厄介だったことがあります。

痩せてしまった時って、自然に体が省エネにモードに入ります。

例えば、元気に動くとお腹が空きます。でもダイエット中なので、「どうせ沢山栄養は入ってこない」ということを身体が知っているので、無意識のうちに「動かない」生活スタイルになっていきます。

生活スタイルだけでなく、ひとつひとつの「身体の動き」自体も、出来るだけ省エネな動かし方に変わっていってしまうのです。体を大きく動かすには、エネルギーや筋力を使いますので、なるべく「使わないように」と脳が命令します。無意識のうちのに「あまり体を動かさない方法」を選び、関節の可動域なども段々狭くなっていきます。

一旦それが脳や体に染みついてしまうと、少し体重が戻ったからと言って、なかなか元には戻りません。無意識に変わってしまったものは、無意識には元に戻らないのです。

なるべく省エネ、なるべく「動かないで済むように」が染みついてしまった身体は、元々の動き方を忘れてしまいました。動きが鈍くなってしまった、と言ってよいと思います。その結果、

①なにかと、疲れやすい身体になる、

②正しい動きが出来なくなって(関節の可動域が狭くなるなど)、あらゆる場所を痛めやすくなる、

など。身体年齢が、確実に上がってしまいました。

そのような体の状態は、ヴァイオリンにも影響します。

以前と同じように力強く弾こうと思って頑張っても、実は身体がついていかない・・・でも、頭の中では「出来る」と思っているし、自分では「なんだか、ちょっとだけパワーが足りない気がする」くらいにしか気付かないのです。気のせいかな?と思ったり、「出来るはず」と思って、昔と同じように弾こうと頑張る・・・。

もちろん、ここぞと言う時には弾けるのですが…(火事場の馬鹿力的な)、頭と体がすれ違っていきます。無理をして、今までにはなかった「痛み」となって出てきました。

痛みが出てしまうと、練習もままならなくなりますので、結果的には、どんどん腕が落ちてしまいます。

身体には自動調節機能がある

人間の身体って、想像を絶する働きをするのです。

少しバランスが崩れてきたり、エネルギーが不足していても、すぐにガタは来ません。

最初のうちは、身体のほうで、なんとか帳尻を合わせてくれるのです。

本人は何も気付かないうちに、身体が調節してくれるのです。

その「自動調節」が、「もう無理・・・」となった途端に、ガタッッッ・・・と崩れ始めます。

私にとっては、それが30代半ば。肩や手の痛みを繰り返すようになる、ほんの始まりでした。

この「痛み」に関しての全ストーリーは、「ヴァイオリニストの、痛みとリハビリの日記」に執筆しています。

時間を無駄にしないでください

長い時間をかけて落ちてしまった、身体の筋肉や機能を取り戻すのには、長い時間とお金がかかりました。

私の「ダイエット」は17歳から28歳まで。その間に落ちた体重は約21㎏。

決して「スピード激やせ」ではなく、本当に少しずつでした。

そして、最低体重をヒットした後、痛み発症まで、7年ありました。なんとか頑張っていた7年間。

その後とうとう痛みが発症してから、「身体立て直し」が始められるまで、6年。「いよいよ弾けなくなるのは、いつだろう」とビクビクしながら、注射を打ちながら、弾いていました。

そして「身体立て直し」開始から、現在で4年が経ちます。

最高の指導者に巡り合い、さらに、きちんとお金をかけたお陰で、取り戻すのにかかった時間は、失っていった時間より大分少なくて済みました。色々な事を勉強し、より身体のことが分かるようになり、確実に健康寿命・ヴァイオリン寿命を伸ばしていると思います。

感謝しています。

…でも。

そもそも、「身体立て直し」をしなくて済む方がいいに決まっています。

痩せすぎてしまうと、あなたの人生の大切な時間、「今ではなく、将来の時間」を、無駄に費やすことになるかもしれません。本当に気を付けて欲しい。

「急に痩せたわけではない」

「ダメなダイエットの例」について調べてみると、よくあるのが「急に体重が落ちる」というNG事項ではないでしょうか。

私の場合、短期間に痩せた訳ではなかったからこそ、「急に痩せた訳ではないから大丈夫」と思ってしまったのかもしれません。急に痩せるよりは、少しずつ痩せた方が、ダメージとしては少ない筈だと考えたのですね。でも、要するに限度を超えてしまったのだと思います。

「まだ若いから大丈夫」とも思っていました。

でも、その時は大丈夫でも、人生は続いているのですから…、私は結果的に、30代の大部分を「不調」で終わらせてしまいました。

平均寿命が伸び、100歳まで生きることが珍しくなくなってきた今、「100歳の時にどんな風に元気でいられるか」を常に考えて、身体を育てていかなくてはならなりません。

80代になっても弾き続けるために

「80歳になっても、弾いていられるように頑張る」というのが、昔から、私の目標でした。

一度は諦めかけましたが、今は可能だと思っているし、成長していけると信じています。

誤解して頂きたくないのですが、私は「ダイエットをするな」と言っているのではありません。

ダイエットをするなら、トレーニングもしなければならないのです。

「ダイエット=痩せる」ではなく、「ダイエット=身体を作る」

=「身体を育てる」ということです。

何歳になっても、身体は、育てなければいけないものです。

ダイエットとは思っていなかった

私は、ダイエットをしていた上記11年の間、自分では「ダイエットをしている」とは言っていませんでしたし、自分でも、「これはダイエットではない」と思っていました。

結果から見ると、体重がどんどん減った訳ですから明らかにダイエットなのですが、「ちょっと食べ物に気をつけているだけ」くらいの感覚だったのです。

それが、こんなにも大変なことになるとは、想像もしませんでした。

次のエッセイでは、このダイエットで失ったものを取り戻す過程で気付いた、大事なことについて、お話したいと思います。

その48 ヴァイオリン上達の秘訣!「よい姿勢」は努力と筋力でつくる

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