その52 「スクワット」ができるまで ヴァイオリニストの筋トレ
私が「肩こりラボ」(以下、ラボ)でトレーニングを始めて、ほぼ3年が経とうとしています。
はじめは、トレーニングというよりも「リハビリ」でした。今までの「ヴァイオリニストの筋トレ」シリーズに、「リハビリ編」という文字が入っているのは、「トレーニング以前」「トレーニングが出来るような状態になるためのエクササイズ」が必要だったからです。
その一部が、今までご紹介した「ドローイン」 「チェストアップ」 「座位グッドモーニング体操」でした。
今月になって、目標であった「自体重の半分の重さを担いで、スクワット」が、やっとできるようになりました。
よくジムに置いてある、このパワーラック。大きな大きな重りを両端に付けて、マッチョな人が担いでトレーニングをしている、これですが ↓

これ、バーだけで、重さが20キロあるんですね。なので、まずは20キロを担げなければならない。
とはいえ、ラボ所長さんの言い方からして、おそらく、トレーニングを始めた当初、この目標は「1年以内には達成できる」というイメージだったのではないかと思うのです。(★後ほど種明かし)
でも、一向にトレーニングは進まず。そのうちに「自体重の半分」なんて、ちょっと無理だよね…? 言ってたのは気のせいだったか…? なんて、思えてきた時期も、長くありました。
そもそも私は、ラボ以前(2019年以前)にも、パーソナル・トレーニングを受けていたことがあり、その頃、スクワットは褒められていたのです。それなのに。
ただ、その時は、色々と頑張っていたら、立て続けに体を痛めることになってしまい、継続が不可能になり、辿り着いたのが「肩こりラボ」だった、という経緯があります。
そんな私の、「バーベル・スクワットが出来るまで」のお話を、していきたいと思います。
棒のような背骨、干からびた筋肉
↑なんという表現でしょうか…。
でも、これが、今になってラボ所長が語る、出会った当時の私の体でした。
背骨というのは、一つ一つの小さな骨が動いて働くものですが、可動性が極めて乏しく、棒のようだった、と。
少ない筋肉も、うまく使えていなかったため、固まって干からびていたようです。
・
その当時の私の症状は、
・肩の痛み (ヴァイオリンを弾くのに支障あり)
・背骨の痛み (レントゲンに異常がないのは確認済みだが、痛い、毎日気になる)
・異常な首の凝り、寝違える頻度が高い
・時々腰も痛い
・ヴァイオリンを弾くと痛くなる首肩、腕、手指・・・練習が続けられない (もちろん、これがの一番の問題)
・基本的に、何か運動をするとすぐに痛くなる体。
こんなところでしょうか。
ヴァイオリン思うように弾けないだけでなく、QOLは下がり、仕事も遊びも体調を心配しながら。将来に不安を感じていました。
今考えると、メインとなる原因は「筋力の低下」という、シンプル、かつ重大な問題だったと思います。
(エッセイ その47 昔のダイエットのせいで、ヴァイオリニストとしての地獄を味わった話 参照)
身体中の筋肉が、瑞々しさを失い、やっと骨にへばりついているような。
そして、あらゆる関節がの動きが悪くなっておりました。
「上手だった」スクワット
でも、そんな身体でありながら、2019年以前、スクワットは褒められていたのです。
なぜ?
おそらく初心者としては、最低限、これでいいかな、くらいのフォームだったのでしょうか。
でも、なにせ背中の柔軟性がゼロでしたし、股関節を筆頭に、あらゆる関節の可動域が少なすぎた私。そんな身体で頑張っていました。
「柔軟性や可動域が極度に減少した状態で、無理に頑張る」
身体を痛めつけることにしかならない…というような状況だったのです。そして本当に、痛い痛い身体となってしまいました。
しかも当時、指示された回数や頻度よりも更に頑張って、毎日運動していたんですね。明らかにやり過ぎだったのですが、それだけ、必死に体を鍛えようとしていたということ。泣けてきます。
多少やり過ぎても、通常であれば、栄養と休養を取れば回復する筈なのですが、「回復ができない」という状態になってしまいました。
病気でもなんでもありません。もとを正せば、栄養不足。(エッセイ その47参照)
太腿の「前か後ろか」
さて、「スクワット」と聞いた時、主にどこの筋肉を使うと思いますか?
私は、以前は「前腿」だと思っていました。というのも、前腿しか筋肉痛にならなかったからです。
しかし今は、「腿裏と臀部」「背中」と思います。
もちろん、スクワットをする際には、基本的に前腿も腿裏も、両方使います。
敢えて前腿を優先的に鍛えるスクワットもあるのだと思いますし、きちんと「腿裏」の筋肉が使える人がそれをやるのは良いですが、私の場合、「腿裏と臀部」なんて、ほぼ使ったことがなかった。その状態で前腿ばかり使ってしまうのは、よい体づくりとは言えません。
よって、使えていない「腿裏と臀部」を「使えるようにする」というのが、最初の課題の1つとなりました。(エッセイ その45 「股関節の謎」 参照)
スクワットは背中も使う
「スクワット」というと、「脚の運動」というイメージがありませんか?
でも、「背中」も、とても重要なんですね。
トレーニングの知識がある人にとっては常識すぎることかもしれませんが、私はそれまでは、スクワットで背中を意識したことがありませんでした。
背中の筋肉を稼働させるには、まず、前述したとおり「棒のようだった背骨」と「干からびた背中の筋肉」を、少しでも動かせるようにすることが最優先。タオルストレッチから始まりました。
その後「チェストアップ」が出来るように練習していったのですが(エッセイ その39 「チェストアップ」参照)、最初の頃は、動かしたことのない背中を急に動かしたため、筋肉がピキッとなって「ギックリ背中」になってしまったことも、一度ではありません。
背骨というのは、小さな骨が連なっているわけですが、その一つ一つが「関節」です。一つ一つの関節の周りにある筋肉が、全体的に固まってしまっていたので、少しずつ少しずつ、動かせるようにしていく作業がありました。
現在でも、背中の柔軟性は標準よりも少ないのだと思います。それでも「だいぶ動くようになった。普通の背中になった」と言われるので、どれだけ大変な背中だったのか・・・。
膝を前に出さない
スクワットの説明で、一番よく聞くフレーズ。一般的には、一番最初に挙げられるポイントではないでしょうか。
自分のつま先よりも前に、膝が出ないようにしなければなりません。
もちろん、「以前のスクワット」でも気を付けていたし、そこそこ出来ていたはずなのです。が、
「膝を前に出さない」ためには、「股関節を、きちんと屈曲」出来なければなりません。
「股関節の屈曲」が苦手だった私が、それを改善せずに「膝を前に出さない」だけを気を付ける・・・これは、途中を無視して、先に結論に手を出すようなもの。
したがって、その根本から改善を始めました。(エッセイ その45 「股関節の謎」参照)
足先と膝の方向を同じにする
スクワットについての説明で、一般的によく聞くフレーズの2つ目。
足の角度が真っ直ぐであれ、ちょっと開き気味であれ、足先の向きと膝の向きを同じ方向に保ちながら行うこと。
これ、私にとっては、以前から難しい問題でした。
私は、よく言う「開脚」が、致命的に出来ません。開脚する → 「股関節の外旋」と言いますが、
私は、外旋が全く出来ない女子です。女子には多いと思います。ヨガをやる時にも、基本の座り方が出来ないし、胡坐も出来ません。ですから、スクワットをすると必ず、足先の向きよりも、膝が内側にきてしまって、内股みたいになります。
↓
これを「ニーイン」と言います。
knee(膝)が in(内側に入ってしまう)する、ということです。
何故「ニーイン」がNGかというと、その状態では、スクワットで下に下がっていった時に、足首も膝も捻れながら曲がっていくからです。それでは、負荷をかけた時に痛めやすいです。
「ニーイン」してしまう原因は、「股関節の外旋」の必要性だけでなく、実は、股関節の「屈曲」、そして「足首の屈曲」も関係します。すべての関節が関係しているのです。
開脚(外旋)だけを練習すればよい、という問題でもなく、とても難しい問題。これは、まだまだ今も課題です。
足首の屈曲
「足首の屈曲」なんて、歩いていれば普通に出来ている、と思いませんか? でも、きちんと検証してみると、あまり屈曲できていない人は多いみたいです。
例えば、歳を取ると転びやすくなる場合がありますね。これは、股関節や足首が動きにくくなるからです。歳を取っていなくても、動かす習慣がなくなると、関節可動域は減っていきます。
足首は、主に「前脛骨筋」という筋肉でグイっと曲げます。この筋肉が使えていないと、足首を「曲げているつもりだけれど、あまり曲がっていない」ということになります。
「曲げているつもり」の人は、「真っ直ぐに」曲げられないため、斜めに曲げてしまいがちです。斜めに待曲げる癖がついているままスクワット等をすると、やはり関節が捻れながら曲がってしまうため、足や膝を痛めることが予想されます。
どこかの可動域が健全でないと、必ずどこかに代償が出ます。
スクワットで、将来的に重りを担いでいきたい場合、それら一つ一つの問題を改善しておかないと、負荷が増えた時にどこかを痛める可能性がとても高いのです。
私は、以前のトレーニングで痛めてしまったので、再び同じことが起こらないよう、細心の注意を払ってエクササイズを進め、一つ一つをゆっくりと改善していく必要がありました。
すべての関節が動かなかった
今になって、ラボ所長に聞くと、初めて会った当初の私は、「すべての関節が、驚くほど動かなかった」そうです。
そんな状態で筋トレをしても、効果どころか、痛めつけるような状態だったのですね。
そんな中、ヴァイオリンはもちろん弾けたのですが、一生懸命弾くと必ずダメージを受けるような状態まで、身体の状態が悪化してしまいました。
目指すべき「スクワット」の形は?
さて。
股関節、足首、背中・・・それぞれの部位の可動性を回復するために、個々のエクササイズを積み上げていきながら、スクワット動作を始めていったわけですが、
その途中で色々な疑問が出てきます。
・足の幅はどのくらい?
・足の向きはどのくらい?
・どのくらい、下りればよいのか
・手の位置は?
・今やっている動作が出来るようになったら、次のステップは?その後は?
・目指すべき「理想のスクワット」は、どういう形??
さて。
ここで、ラボ所長から衝撃の答えが返ってきます。
「理想のスクワット」は、ない。
「これがスクワットの完成形」というものがあるならば、それを目指してやれば良い訳ですが、スクワットに「完成形」は存在しない、と言われました。
そんなばかな。
じゃあ、何を目指せば良いのでしょうか。
・
一口に「スクワット」と言っても、様々なやり方があります。
その人が「どこの筋肉を一番鍛えたいか」
「何に重きを置いて、スクワットをするか」など、
エクササイズをする人の事情に合わせて、やり方は変わってきます。
そして一番大事なのは、「鍛えたい筋肉、目的とする筋肉を、きちんと使えているかどうか」ということです。
先程例を挙げたように、前腿に効かせたい人もいれば、腿裏に効かせたい人もいます。より背中を鍛えたいとか、内腿を鍛えたい、なんていうのもあるでしょう。
私のような初心者の場合、「本当はこのフォームでやって欲しいけど、今は難しいので、むしろ、ココはこうしておいて」など、その人の強い所や弱い所を考慮して、オリジナルのフォームで行うことも、多々あります。
その人の体の状況も、今と3ヶ月後では、変わってくるかもしれません。状況が変わった時には、また、違うフォームに変更したり、方針を変えたり…。
一概に「こういうスクワットを目指しましょう」と、目標を固定することは出来ない、という訳です・・・。
・
いえ、ね。
仰ることは分かりますけど…
初心者は、もっとシンプルに「これ」と言って欲しいですよね…。
「やるからには、きちんと行いたい」という気持ちが強かった私は、「より完璧なやり方」は何なのか?というところが、とても気になったのです。が、
「こういう風にすれば、完璧、OK!」みたいに単純には…いかないんですね、スクワット。
「単純な解答」を求めていた私と、「単純にはいかないんです」という所長。コミュニケーションのすれ違いを多々経験しながら、歩んできました。
そもそも私は、なぜスクワットするのか
そんなすれ違いを経験しながらも、どうしてもバーベル・スクワットが出来るようになりたかったのは何故か。
私のトレーニングの目的は、究極的には、すべてヴァイオリンのためです。
ヴァイオリンを、1日何時間も+ 連日弾いてもダメージが来ない、そして元気に演奏できる身体に育てたいわけです。
腕を鍛えるとか、指を鍛えるとか、
細かく言えば、色々なことがあり、それらも並行して行うのですが、
トータルで考えた時、全身の運動である「スクワット」を、高負荷で、ある程度の回数をこなせるようになれば、体力が付いた、ということになります。
スクワットは、トータルでの体力づくりのためであり、身体の各箇所・・・股関節やら、足首やら、背中やら・・・の、色々なエクササイズの総集編です。
・
ヴァイオリニストの日常は、体力がないと始まりません。
本番で使う体力はもちろんですが、そのためのリハーサルは、連日、長時間に及びます。
例えば、一つのコンサートのために3日間のリハーサル日があるとします。全部で4日かかります。1日のリハーサルが4時間前後で、連日あるとしましょう。
→ これは一例でしかありませんが、2019年当時の私には、この日程をこなすのは不可能でした。1日分のリハーサルがやっと・・・くらいの体力しか無かったですね。今考えると、いかに弱っていたか、というだけのことなのですが、この状態にとても悩んでいたわけです。
まだ出発点以前
やっと「自体重の半分」の重りを担いでスクワットが出来るようになり、3年越しの目標達成!と思っていたのですが、ラボ所長によると (★種明かしです)
「ふつうの人なら3ヶ月ですよ」
・・・・・
な ん で す っ て?
・・・・・
決して所長が意地悪なわけではないみたいです。実は他のトレーナーさんにも、
「今、自体重の半分ですか? じゃあ、筋力足りないですね」と、サラッと言われました。
・・・まぁ、分かってたけどね。
「トレーニングをする人達」にとっては、自分の体重と同じ重さを担ぐことは、ごく普通らしいです。
ということは、私はまだまだ、出発点にも立っていないのか。
・
負荷をもっと増やしていったら、どこかの時点でまた「膝が痛い」「腰が痛い」「足が痛い」など、不都合が出てくることも考えられます。そして、その都度微調整が行われることでしょう。
「スクワットが出来るようになった!」といっても、その「やり方」は「今のやり方」でしかなく、常に調整し、常に変わっていく可能性があります。スクワットに限らず、他のどんなエクササイズも。
「完成形」がないもの。
その人によって、その時によって、目指すべき形が違うもの。
トレーニングは、奥が深いですね・・・(ため息)。
↓
ヴァイオリン、音楽と、同じか…。
パワーだけでなく、筋肉に裏打ちされた微細なコントロールを
これからも、怪我に気を付けつつ、体力向上・パワーアップを目指して、トレーニングを重ねていこうと思います。
先ほど申し上げたように、スクワットを高負荷で行えるようになることによって、体力増強を狙っているわけですが、
スクワットは体幹トレーニングでもあります(体幹だけでなく、むしろ全身のトレーニングですが、体幹が大事)。
体幹の安定性や強さは、腕や手の微細なコントロールをするために、大変重要なことです。
パワーだけでなく、繊細な音を操る魔術師を目指し、日々精進していきたいと思います。
より力強く、より美しい音色を、筋肉が奏でます。
・
こちらもご覧ください。
↓
エッセイ その48 ヴァイオリン上達の秘訣! 「よい姿勢」は努力と筋力でつくる
エッセイ その43 ヴァイオリニストの筋トレ④ 体幹の重要性
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