その45 ヴァイオリニストの筋トレ⑥ (リハビリ編)
「股関節の謎」ヒップヒンジってなに?
「股関節の屈曲」
身体立て直し計画の最初の頃、トレーナーさんに処方されたエクササイズのひとつに、
「股関節の屈曲の練習」というのがありました。
「股関節の屈曲」って・・・。
そんなの、誰でも出来るじゃない?って、思いませんか??
確かに私は、股関節の可動域が少ないと自覚していましたが、それは「開く」ということ=「外旋」や「外転」に関してであって、
「屈曲」はさすがに出来るでしょう?なにか問題でも???・・・と、思いましたね。
「ヒップヒンジ」ってなに?
これが、当時のメモです
↓
◆座位・お辞儀体操 (座位グッドモーニング)
座位にて、ドローインとチェストアップを維持したまま、股関節を屈曲しヒップヒンジを行う。下肢(主に大腿部)で体を支える。下肢と背部腹部の筋力向上、股関節と体幹の分離動作、股関節のmobility改善、体幹のstability改善のエクササイズ。
トレーナーさんのメモなので、少しムズカシイ言葉で書いてあります。
もう少し易しく説明すると・・・
通称「お辞儀体操」、正式名は「座位グッドモーニング」
座った姿勢で行う「グッドモーニング」というエクササイズです。(通常は立って行うらしい)
一番の目的は「股関節と体幹を分離する」ということで、
脚(下肢)と、背中、お腹…という、広い範囲の筋力アップにもなります。
「股関節と体幹を分離する」というのは、「股関節の可動性」と「体幹の安定性」の双方をアップさせる、ということのようです・・・。
まぁ、ムズカシイ言葉でなくても、なかなか読み解くのに一苦労、という感じですよね。
そして当時、全く解らなかったのが、この単語。
「ヒップヒンジ」
この「グッドモーニング」体操のポイントとなる動作ですが、私にとっては、聞いたこともない単語でした。
今まで「屈曲」と思っていたのは「屈曲」ではなかった
「ヒップヒンジ」とは、股関節を蝶番(ちょうつがい)のように動かす動作のことです。
蝶番(ちょうつがい)って・・・コレ ↓↓
パタパタと、ひとつの軸で曲がるやつですね。
ぐにゃっ・・・と曲がらないで、パタッと折れる、みたいな。(←伝わる?)
この蝶番(ちょうつがい)の部分が、股関節だとしたら。
ヒップヒンジとは、「体幹と股関節を分離して動かす」ということです。
股関節を屈曲する時に、骨盤や腰(腰椎)の助けを借りずに(骨盤や腰で丸まらないで)、股関節のみで、股関節を屈曲する。
こちらが、「ちょうつがい」的に動かした(屈曲した)例・・・(ヒップヒンジできている)
↓
そして、こちらは、ヒップヒンジが出来ていない例・・・
↓
股関節(お尻のあたり)の屈曲角度が足りないのが、分かりますでしょうか。
上の写真では、股関節自体の屈曲角度が大きい。
見た目的には、上の写真のほうが「浅いお辞儀」になっていて、下の写真のほうが「深いお辞儀」になっていますが、
お辞儀が深いからといって、股関節が屈曲出来ているとは限らない、ということです。
要するに、
私がそれまで「股関節の屈曲」と思っていたものは、「ちょうつがい」ではなく、かなり「丸まらせる」という動作が入っていたのだろうな・・・と思います。
なぜ、ヒップヒンジが重要なのか
ヒップヒンジが出来ていない/苦手、ということは、股関節を屈曲する時に、股関節自体で曲がりきれない分を、腰(腰椎)等でカバーして曲げている(つもり)ということになります。
それを続けていると、徐々に腰に負担がかかり、腰痛の原因にもなります。
腰に負担がかかるということは、連動して肩や首も力みやすくなり、肩凝りや首凝り、頭痛など、影響は多岐にわたります。
そういった、股関節から遠い部位の不調も、股関節の可動性の悪さが原因になり得る、ということですし、逆に、股関節の可動性を上げると、他の部分の負担が減るのですから、身体が動かしやすくなったり、不調が改善するかもしれません。
ヴァイオリンにおいては、首や肩が必要以上に力んでしまうと、腕や手指の正しい動きが出来なくなってしまいます。その原因の一端が、遠い股関節の可動性にある、という可能性も、あるということです。
また、ヒップヒンジが出来ていないと、スクワット等のエクササイズをする際に良い姿勢を保つことが出来ず、エクササイズの効果が半減したり、腰や脚などに負担がかかって痛めたりもします。トレーニングをしていくに当たっては、ヒップヒンジは基礎の基礎となります。
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ヒップヒンジが出来る/上達する、ということは、動作の中で「股関節と体幹を分離」させることが出来て、より良い体の動かし方に繋がります。
日常生活内でのあらゆる動作の質、そしてトレーニング効果アップ、ヴァイオリンの上達・・・と、様々なことに好影響となるはずです。
お尻の筋肉と、ハムストリングス(腿裏)
この「グッドモーニング」体操のポイントは、「股関節と体幹の分離」→
股関節のみで、(他の部位の力を借りずに)、動かせる可動域が増える、ということになりますが、
この「股関節のみで屈曲 ⇔ 進展を行う」という時に使う重要な筋肉が、
大殿筋と、ハムストリングス(腿裏)です。
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「大殿筋」=お尻の筋肉って、普段、あまり「使っている」と思うことが少なくないですか?
(エクササイズに慣れている方は、そんなことないと思いますが・・・)
私は、ほとんど意識したことがありませんでした。「身体立て直し計画」がスタートするよりずっと前にも、トレーニングはしていたにも関わらず、です。
以前は、スクワットをしても、「前腿」に効いていたんです。
「前腿に効く」ということ自体は全く悪くないのですが、「臀部や腿裏がうまく使えないで、前腿だけに効く」という状態だったことが、今となっては反省点です。
「臀部とハム(腿裏)」って、一般人にとっては、意識しないと使いにくい・使えない筋肉だと思うのです。高齢者にとっては、真っ先に落ちていく筋肉なのではないでしょうか。(家族を見ていても、そう思います・・・)
「ヒップヒンジを使って、正しく股関節を屈曲する練習をする」ということは、臀部とハムを使えるようにしていく = 身体の使い方を改善するということ。それをするのとしないのでは、将来、歳を取った時にも、きっと違いが出ますね。
実は全身のエクササイズ
「グッドモーニング体操」は、殿筋・ハムストリングスの他にも、
姿勢を保つ・支えるために、脚、腹部、背中・・・と全身を使います。
「なるべく股関節だけで屈曲する練習」は、全身のパワーアップにも繋がるのです。
ヴァイオリン上達のためにも
では、この「座位グッドモー二ング」体操とヴァイオリンの関係について、もう少し説明してみます。
座って演奏する場合
座って演奏する、ということは、実は、とても難しいことです。
何故なら・・・
「疲れたから座る」って、よく言いますね。
座った方が楽、というイメージはありませんか?
「疲れたから座る」場合は、それでも良いのです。でも、
座って「なにかをする」場合、それは「立つ」と同じくらいの労力をかけて「座る」という姿勢を作る必要があります。
「ヴァイオリンを弾く」をプロとして行う場合や、「上達するために練習する」のであれば、座り方はとても重要になってきます。どちらの場合も、長時間行うことになり、それによって腰痛になる人は少なくありません。
それを予防するためには、まず「良い姿勢で座る」ことを癖にしましょう。
どのように座るかというと、「きちんと脚で支える」ということなんです。
え?座るのに、脚を使うの?と思った方は、よい姿勢で座れていない可能性がありますね。
・まず、椅子の前の方に浅く腰掛け、
・骨盤を立てて、
・ドローイン、チェストアップをして…少し前傾姿勢になります。
・・・そうすると、脚で支える感覚が出てきませんか?
この時に使うのが、ヒップヒンジです。
「良い姿勢で座る」は、「座位グッドモーニング」体操行う時の姿勢とほぼ同じなので、エクササイズの効果も分かりやすいですね。
使うべき筋肉を使って、良い姿勢で座ることで、体幹も安定するので、確実にパフォーマンスが上がるはずです。
立って演奏する場合
立位でも、重要なのはまず、よい姿勢で立てているか、ということ。
立位では股関節を屈曲する必要がありませんので、ヒップヒンジは関係ありませんが、「良い姿勢で座る」と基本は同じです。重要なのは、
・脚の支えが安定していること。→ 大殿筋とハムストリングスを使います。
・ドローインとチェストアップ。 → (お腹と)背中の筋肉を使います。
上記両方とも、身体の背面の筋肉を上手く使うことが必要です。
背面での支えがしっかりしていてこそ、体幹が安定し、腕や手指が自由に動くことが出来ます。
女性の場合は特に、本番でヒールのある靴を履くことも多いですから、臀部とハムストリングスが強くないと、前腿に頼ることになり、姿勢が崩れます。
姿勢が崩れると、背中や首肩にも影響し、過度の筋緊張に繋がったり、疲れやすくなったり、痛くなったり・・・そして演奏技術にも影響します。
私は、不調だった時期、本番でヒールのある靴を履くことが出来ませんでした。姿勢が崩れることの悪影響・負担感を敏感に感じ取ってしまい、即「上手く弾けない」という状態になっていました。
現在は問題なく、ヒールのある靴で舞台に立てています。「座位グッドモーニング体操」から始まり、大殿筋とハムストリングス・背部を、徐々に強化してきたお陰です。
「座位グッドモーニング」
「グッドモーニング/トレーニング」とネット検索すると、通常の立位で行う方法が出てくると思いますが、立位で行うのは上級編なので、まずは椅子に座った状態での「グッドモーニング」を行いました。
股関節を折りたたむ練習 です。
以下、やり方と、動画です。
①椅子に浅く座ります。骨盤は立てておく。
②「ドローイン」と「チェストアップ」をする。
③その姿勢をキープしたまま、股関節を折りたたんでいきます。
→ 前傾姿勢になるということなので、脚を使って支えます。
④その後、上半身を元に戻す時も、ゆっくりと、腹筋が抜けないように。腿裏と臀部をグッと踏ん張って、上半身を起こします。
常時、上半身の姿勢が崩れないよいうに。ドローインとチェストアップが抜けないようにしましょう!
どんな時にも「ドローイン」と「チェストアップ」
「エッセイ その39」でお話した「チェストアップ」、そして、
「エッセイ その42」でお話した「ドローイン」、
この2つは、その他どんなエクササイズやトレーニングをする際にも、まず、行わなければならないことです。
この2つが出来ていないと、今回の「座位グッドモーニング」も、効果が半減してしまいます。
是非こちらもお読みください。
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