その49 ボーイングを科学する①

その49 ボーイングを科学する①

「ヴァイオリンは、右手で弾くんですよ」

私が高校生の時でした。

それまで10年間習った先生に、「そろそろ、別の先生に習っても良いのでは?」と後押しされ、新しい師匠のもとへレッスンに通うようになった、1番最初の頃に言われた言葉です。

衝撃でした。

なぜ?「右手で弾く」なんて当たり前のことじゃない? と、思いますか?

でも、練習をする時、ついつい、左手(音程を正確に押さえること)ばかりに意識が行っていませんか? 

長年生徒さんを見てきても、9割以上、初心者では100%の方が、左手に殆どの意識が行ってしまいます。

もちろん、左手には音程という大きな課題がありますし、正確かつ素早く動くことや、ビブラートを美しくかけること…、どれも最重要です。

でも、より「美しい音」を求める時、その「音」を作る直接の担当は、右手(右腕)なんですよね。

何をもって「美しい音」と言うか。

ここでは、このように定義しいたいと思います。

・雑味のない、透明感のある響き

・楽器そのものの持つ響きが、邪魔されずに、最大限に広がる状態

もちろん、絶対に雑味(雑音)があってはいけないのか、というと、そうではありません。音楽を表現する上で、雑音が一役買うこともあります。

でも、そんな「味付け」をするのは、まず「雑味のない音」を出せるようになってからにしましょう。

このページでは、きれいなボーイングを習得するため、ボーイングに関係する各所を、科学のような視点で分析していきます。

各所の分析

弓と、弦の接点

まず最初に、音が出るポイント、弓と弦の接点について、見ていきます。

基本的には、

①弓と弦が交差する角度が、直角になる状態が、1番良い音になります。

②駒と指板の間の、ちょうど真ん中辺りが、基本の位置です。

③弓の傾き加減(※)は、少しだけ、直立よりも、向こう側に傾くようににします。(傾け過ぎもNG。表現方法によっては、直立にする場合もあり。しかし、基本的には手前側には傾けない)

この①〜③を保ちながら、弓の元から先まで動かし、往復する→これが、「まず出来るようにしたい事」です。

しかし、弓は長い物なので、元から先までを動かすうちに、①〜③の状態をが崩れてしまったりするのです。厄介ですね。

まっすぐ弾くための腕の動かし方

前の段落の①〜③が出来ている状態を、「真っ直ぐ弾く」と呼びましょう。

基本を学ぶ時、まず最初に、これを出来るようにしたいのですが、

「真っ直ぐ弾く」は、初心者の方にとっては最難関と言ってもよいくらい難しいですので、

生徒さんの年齢によっては、最初はあまり追求しません。

一方で、中級くらいの方でも、これが出来なくて悩んでいる、あるいは、出来ていないために残念な仕上がりになっている方が、とても多くいます。

腕には、前腕と上腕があります。上腕の根元には肩関節、上腕と前腕の間が肘関節があります。

どの時点で上腕を動かし、どの時点で前腕を動かすか、どのような連携で動かすか・・・これで、①が保てるかどうかが決まります。

そして、それを踏まえた上で、「弓が動いていく方向」=「腕を動かす方向」を意識することで、②を保っていきます。

始め、真っ直ぐに置いたはずの弓が、弾き始めたら真っ直ぐでなくなる、滑っていってしまう…これは当然です。

弓を動かしながら「真っ直ぐ」をキープするには、弓を動かしていく「方向」が、1番大事です。

腕と弓の間にあるのが手指

「真っ直ぐ弾く」ためには、どう腕を動かしたらよいのか、ということに集中する必要がありますが、

しかし、腕の動きだけでは、「真っ直ぐ」にはならないのです。

腕と弓の間には、手があります。手の周りには、「手首」「指の各関節」と、関節が沢山存在します。この、たくさんの関節がフレクシブルに動かないと、腕と弓の間の微調節ができません。

「真っ直ぐ弾く」ための③は、この「手」の部分=たくさんの関節で、調節します。

「もうひとつの」関節

手の指は、直接弓と触れる部分です。

この接触面を、自分の「もうひとつの関節」として機能させられるかどうか、というところが、弓のコントロールを習得するにあたっての大きなポイントです。

「もうひとつの」と書きましたが、指は5本ありますので、指と弓の接触面は5つ。

=「5つの関節」が、追加されるということになります。この5つを仮に「指弓関節」と言っておきましょう。

関節として機能させたいので、指と弓が接触する面積は、最小限にしたいところです。

そして「関節」ですから、接触面は、少し動かなければなりません。(指が移動するわけではない)

指が、「べったりと弓にはりついて固まっている」ような状態は好ましくない、という意味です。

指弓関節のお話の続きは、

エッセイ その51 ボーイングを科学する③ 弓をいかに「持たない」か』 

のページをご覧ください。

手首が動かない!

「たくさんの関節がある」というお話をしました。

自分の関節の中で、自在に操ることが特に難しいのが、手首となります。(指弓関節は例外として)

手首を柔軟に使うことが出来るようになれば、上級者と言ってもよいくらいです。

では、何故、手首は固まってしまいがちなのか…

「何かを持ちながら手首の力を抜く」という事が、そもそも難しい、ということがあります。

何も持たない状態であれば、誰も、手首は固まらないのです。

しかも、弓は長いです。

長いものの端っこを持っというこたは、結果的に、重いということです。

重い物を持ったら、手首を固めてしまうのは、人間としては当然のことです。

では、どうやったら、重い物(弓)を持ちながら、「手首を固めないで弾く」ことが出来るのか。

それは、「エッセイ その51 ボーイングを科学する③ -弓をいかに『持たない』か-」

のページをご覧ください。

関節・筋肉を自在に操る

肩関節、肘関節、手首、手指関節、指弓関節。

右腕〜弓に関係する関節は、こんなにあります。

これらの関節を自在に操ることが出来れば、「弓を自在に操れる」=ボーイングの上級者、ということになります。

しかし、関節を動かすのは筋肉ですから、実際には「あらゆる筋肉を自在に操る」ということに、なりますね。

では、肩関節から先の筋肉や関節を、より自在に動かすために、大切なことはなんでしょうか?

腕の筋トレ? 関節の柔軟性? それもそうですが…

私は「体幹の安定性」と考えます。

体の末端(この場合、腕と手)を、力ませずに、自由に、かつ力強く・・・「自在」に使うためには、体の中心でしっかりと土台を作ることが大切です。

体の中心がしっかりしていない例とは・・・

・弾く時に、腰が反ってお腹が出てしまう → 腹筋が抜けているので、体幹・上半身が不安定になります。見た目も、とてもだらし無い姿勢となり、音も弱々しくなります。脚を閉じたままだと、そうなることが多いので、適切な足幅で立ち、臀部と腹筋をしっかり入れましょう。

・巻き肩 → ヴァイオリニストに巻き肩は多いですが、巻き肩になると、肩関節の状態が最適ではなくなり、腕の動作全体に制限が出てきます。肩や首のトラブルに繋がる方も、少なくありません。

体幹しっかり安定させ、肩関節の状態を最適化出来てこそ、スムーズな腕の動きを出すことが出来ます。美しい音を目指すヴァイオリニストにとっては、最重要ポイントのひとつと考えます。

肩関節の状態を最適化していくためには、胸郭・背中を正しい位置に保つ。

そして胸郭・背中を保つためには、臀部を腹部をしっかりと締めなければ不可能です。

結局、全身の姿勢を綺麗に保つこと → より良い持ち方で楽器と弓を持つ → ということが、美しい音を出すための道となります。

体は、上から下まで、中心から末端まで、すべて繋がっています。

ヴァイオリンには、脚や、腹筋や、殿筋は、関係ないと思いますか?

「指や腕の練習さえしておけば、弾けるようになるだろう」「腹筋も胸郭も、脚も、関係ない」と、思いますか?

ある程度までは、それでも良いかもしれませんが、どこかで困難にぶつかります。

腕や手指を自在に使いこなすためには、身体の中心(土台)をしっかり作り、安定させ、胸郭を上げて、肩関節を良い状態にする・・・これが最も大切なことと、私は考えています。

私自身、大変な不調に陥った後、その訓練を地道に続けた結果、より美しく、力強い音が戻ってきました。※

「ヴァイオリニストの痛みとリハビリの日記」は、こちらをご覧ください。

「ボーイングの解剖学①」と題して、弓と弦の接点→右腕の動き→関節を自在に→体幹の大切さ、という順でお話をしました。

では次は、先程「指弓関節」と呼んだ、指と弓の接点に焦点を当て、弓の持ち方と手の形について、お話をしてみたいと思います。

エッセイ その50 ボーイングを科学する② -変化する、手の形- 

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