その55 ヴァイオリンに良い筋トレ、教えて! ヴァイオリニストの筋トレ
ヴァイオリンに良い筋トレ、教えて!
「ヴァイオリニストの筋トレ」というタイトルで、細々とエッセイを書いたり、動画を発信したりしておりますが、
そんな中、久しぶりに会う人に
「筋トレ、すごい興味津々」と言っていただいたり、
また、
「ヴァイオリンにいい筋トレを教えて?」
と言っていただけることが増えました。
皆さま有難うございます!
・・・さて。
「ヴァイオリンのいい筋トレ」ですって??
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・
そう来たか。(いや、普通そうでしょう)
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・
その質問はやはり、
「このエクササイズがいいよ!」という単純回答を求めているのだろうか・・・?
と思うのですが、
そう簡単にはいかないですよね・・・。
(↑ある意味、皆さんのせっかくの期待を裏切る私)
この筋トレシリーズに書いている「これが大事です」という事柄は、全て、私の身体と演奏で実証済みのことですが、
ひとつに絞ることなんて出来ないのです。
(だからこそ、シリーズが続くのです)
でも今日は、「ヴァイオリンに役立てられる筋トレ」という「まとめ」を書くつもりで、ザックリとお話していきたいと思います。
ヴァイオリンといえば、肩関節
ヴァイオリンの特徴といえば、あの、不自然な姿勢ですよね。左右不対称。
そして、右腕を沢山動かして演奏するので、右の肩関節は酷使されます。
大人のアマチュアの方などでは「四十肩・五十肩になった」と、ヴァイオリンを諦めてしまうパターンもあるのではないでしょうか。
プロでも、四十肩になると大変です。(なることもあります)
四十肩の予防にもなり、なってしまった場合でも回復のために重要なのが、「肩のインナーマッスル」。
「エッセイ その44 肩のインナーマッスル」で詳しくお話していますが、肩のインナーマッスルのうち「棘上筋」「棘下筋」「肩甲下筋」を、活性化しておくことがとても大切です。
「活性化」ってなに?
「インナーマッスルを活性化しておく」と申し上げました。
「鍛える」じゃないの?
はい、鍛えてもよいのですが(!)、とりあえず、活性化しておくことが先です。
「インナーマッスル」とは、日本語で言うと「深層の筋肉」です。それに対して、表層には「アウターマッスル」があります。
「エッセイ その44」でもお話していますが、インナーマッスルとアウターマッスルは、筋肉の位置関係だけではなく、その役割に違いがあります。
『アウターマッスルは関節を動かすなど、直接動きに関わる筋肉です。
一方、インナーマッスルはアウターマッスルの補助として働いたり、姿勢の調整をします。』
(肩こりラボHPより引用)
インナーマッスルというのは、言うなれば「縁の下の力持ち」です。
そういう存在の人って、うっかりすると、つい、働いてくれることが当たり前になり過ぎてしまって、感謝を忘れがちになりませんか?
肩も同じです。アウターマッスルのほうは、目に見えるところにありますし、意識が向かいやすいのですが、インナーマッスルは、ついつい無視してしまいがち。そうするとインナーマッスルさん達は、働くのを忘れてしまうこともあります。
「縁の下の力持ち」がいない状態で肩を酷使してしまうと、痛める原因になります。
四十肩のような症状が起こる人は、この、インナーマッスルとアウターマッスルの連携やバランスが、何かのきっかけによって上手くいかなくなったり・・・という状況になっている可能性があります。
肩のインナーマッスルのエクササイズは、ヴァイオリニストにとっては、永遠に必須。日頃からエクササイズをして、動作確認をしておくべきだと思います。
一般の方にとっても、肩の状態を把握するために、定期的に行うことをお勧めします。
エクササイズそのものについてのお話は、「エッセイ その44」をご覧ください。
三角筋と大胸筋
インナーマッスルのケアの次は、アウターマッスルの強化をしましょう。
ヴァイオリンの演奏では、右腕を大きく、速く、力強く・・・もちろん弱く繊細にも・・・動かします。曲調に合わせて動かせなくてはなりません。
身体能力が高い(筋力が強い・コントロールが上手い)人のほうが、多様な動かし方が出来るでしょう。
思い通りの表現を追求するためには、筋力強化は大変有効です。
腕を常に挙げながら独特の動きをするヴァイオリンの弓動作では、三角筋の前部と大胸筋が活躍しますので、日頃から鍛えておくとよいと思います。
また、これは「演奏」自体とは関係がありませんが、女性の場合は、演奏時にドレスを着るので、肩や腕が露出します。そこが引き締まって、しっかりとした筋肉が見えると、美しいですね。
体幹は基本
肩と腕の話を先にしましたが、
力強く弾くためには、体の両脇についている肩や腕よりも、真ん中がしっかりしていることがまず大事です。
体幹は、ヴァイオリンだけでなく、何事においても基本です。
実際に体幹を鍛えると、腕を動かした時の安定感が抜群に増します。
また、楽器を保持する姿勢は、背中の支えが重要となります。
「体幹」というのは、ここでは、腹部・背中を含めた胴体の部分全体のことを指します。
腹部と背中を鍛えて、楽器を持つ姿勢をきれいに、そして力強くキープできるようにしたいものです。
背中のポジショニングは腕の動きに直結しますので、音の響きにも大きく影響を及ぼします。
立って弾くなら脚と臀部
立って演奏する場合、そして特に女性がヒールを履いて演奏する場合、脚と臀部を鍛えなければなりません。
ヒールを履くということは、身体を支えることがより困難になります。
脚と臀部だけでなく、やはり、先ほど言った体幹も、さらに強くする必要がありますね。
座って弾くなら、さらに体幹
座って演奏する時間が長い人は、腰痛になることが多いようです。
それを予防して、演奏自体の精度やダイナミックさを上げるには、体幹を強くする以外にありません。
特に腰痛には、腹筋の強化が大変最重要かと思います。
加えて、股関節の可動性も、座った時の姿勢に影響します。股関節の重要性については「エッセイ その45 『股関節の謎』ヒップヒンジってなに?」を是非ご覧ください。
ヴァイオリン独特のトレーニングは?
さて、ここまでご覧になって、
なんか、割と普通のことばっかりじゃない?
と思われますか?
ヴァイオリン独特の筋トレとかは、ないの??
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独特のこと、といえば、指トレでしょうか。それについてはこの後に書きますが、
ここまでは、至って普通のことをお話しています。
ヴァイオリンを弾く・弾かないにか関わらず「身体の機能をより向上させる」というイメージを持っていただくと良いでしょうか。
筋肉が「多い・少ない」や「強い・弱い」ではなく、まずは「身体の動かし方を理想に近づけるためのトレーニング」です。
身体の使い方が上手になることが、ヴァイオリンの音色や表現を自在に操るためのポイントですから。
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では次に、お待ちかねの指についてお話しましょう。
指トレって必要?
指のトレーニングの必要性について。
すでにヴァイオリンを上手に弾けているプロの方や、上級者の方は、特に問題がない限り、指のエクササイズやトレーニングは必要ないか、あるいは、すでにヴァイオリンの練習の中に組み込んでいらっしゃるのではないでしょうか。ヴァイオリンを弾くのに必要な指の動きは、ヴァイオリンを弾くことでしか鍛えられない・・・というのは、ある意味、真実です。
「ある意味」と言ったのは・・・
「ヴァイオリンを弾く」以外の指トレも、弾きやすくするために有効であることも、それもまた真実ですし、練習する時間が足りない時や、ウォームアップ代わりには、楽器から離れての指トレは良いと思います。
また、「昔は問題なく弾けていたのに、最近ちょっと・・・」というような事がある時は、指トレで改善できるかどうか、一考の余地があるかもしれません。
ただ、指よりも他の所に原因がある可能性も大いにあります。
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アマチュアや初心者の方は、上達のためのひとつの手段として、指トレが有効な場合が多いです。
どんな指トレをしたらよいのかは、人によりますので、習っている先生に聞いてみましょう。弱点やお悩みを炙り出す必要があります。
ただこの場合も、もしかしたら、上達のポイントは指だけでなく、身体の他の部位にある可能性も大きいです。
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ついつい手指にばかり意識が行ってしまいますが、ヴァイオリンを弾くということは全身に関係があります。「ヴァイオリンとは関係がない」と思われるようなところが、実は演奏技術の上達に重要な場合も多いですので、手指だけに集中せず、全身を見ながら、より良い演奏を目指して、必要なエクササイズを模索するのが大切だと思います。
結局、全部?
さて、「ヴァイオリンによい筋トレは何か?」を書いてまいりました。
結局、全身、けっこう満遍なく重要な感じがしませんか?
私は、弱った身体から回復するまでに、これら全てについて、リハビリ・エクササイズをし、今のトレーニングに繋げてきました。そして全てのトレーニングが、ヴァイオリンの演奏に結び付いています。
「ヴァイオリンに良い筋トレ」は、「全身」なのです!
「身体の機能を向上させる」ということを念頭にトレーニングを行っていけば、全てが必ずヴァイオリンにも好影響を及ぼすはずだと、私は信じています。
ただ、例えば、
ボディビルダーのように、腕の筋肉を特大まで肥大させてしまったりすると、ヴァイオリンの動きには不自由になるでしょう。そこまで筋トレ上級者になったら、「これはヴァイオリンのためにならない」というトレーニングも出てくるのだと思います。が、
女性は、そもそもそんなに筋肉が肥大しません(よっぽど肥大に焦点を狙らない限り)。
そして私はまだ初心者ですので、「ヴァイオリンのためにならない」なんて事が起こるほど、ものすごい筋トレはしておりませんので・・・。
量より質、重さよりもまず機能
私のようなトレーニング初心者の場合、「数値を上げていく(より重い負荷を扱う)」ことよりも、正しく動かせているか、筋肉を自分でコントロールしながら使えているか、というようなことを大切に考えて欲しいと思います。
「身体の機能」を向上させることが、ヴァイオリン上達への近道と思っております。
初心者から少し進むと、さらなるパワーアップを目指して、量や重さを増やしていく段階になるかと思います。結局は「質も量も」どちらも大事・・・ということになりますね。でも、それって、ヴァイオリンの練習と同じではありませんか。
ちなみに、ついつい筋トレに夢中になって、ヴァイオリンの練習をサボってしまったりすると元も子もありませんので、くれぐれもご注意ください(自戒をこめて)。
こちらも、是非ご覧ください ↓↓
「ヴァイオリニストの筋トレ」シリーズ
その39 ヴァイオリニストの筋トレ②(リハビリ編)チェストアップ
その42 ヴァイオリニストの筋トレ③(リハビリ編)ドローイン
その44 ヴァイオリニストの筋トレ⑤(リハビリ編)肩のインナーマッスル
その45 ヴァイオリニストの筋トレ⑥(リハビリ編)「股関節の謎」ヒップヒンジってなに?
その52 ヴァイオリニストの筋トレ⑦「スクワット」ができるまで
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